身内が亡くなった後の手続き~相続に関する手続き~
遺言書を探す
遺産相続では、まずはじめに、遺言書があるかどうかを調べます。遺言書の有無によって、その後の手続きが大きく変わります。
遺言書の存在を故人から知らされていなくても、どこかに預けられている可能性がございます。入院先や利用施設などをくまなく探しましょう。
検認手続きを行う
自筆証書遺言(法務局で保管されているものを除く)は、検認の手続きをしなければなりません。検認により相続人は、検認の日現在の遺言書の内容を知ることができます。
検認手続きは、家庭裁判所(個人の最後の住所地)に以下のものを持参して行います。
・家事審判申立書
・当事者目録
・遺言書(封書の場合は封をしたまま)
・故人の出生から死亡までの戸籍
・相続人全員の戸籍謄本
※遺言書1通につき、収入印紙800円分の手数料と連絡用の郵便切手が必要です。
※検認済み証明書を受け取るには、遺言書1通に付き150円の収入印紙と申立人の印鑑が必要です。
検認は、以下の流れで進み、通常2~3か月かかります。
①家庭裁判所に遺言書を持参する(検認の申し立て)
②検認期日が指定される。
③家庭裁判所に赴き、検認を受ける(開封の立ち合い)
④検認済みの証明書の交付を受ける
検認を行うことではじめて相続に関する手続きを進めることができるようになります。ただし、検認は偽造や変造を防止するための手続きであり、遺言の内容が効力を持つかどうかを判断するものではありません。
法定相続人を確認する
遺言書がない場合、相続は法定相続人に対して、法定相続分で行われます。配偶者は必ず法定相続人となりますが、それ以外は相続の優先順位が決められています。
第一位…子(亡くなっていれば孫)
第二位…直系尊属(亡くなっていればその親)
第三位…兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)
法定相続人を確認するには、故人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍(改正原戸籍や戸籍・除籍謄本)を取得して、調べる必要があります。本籍地を変更している場合は複数の市区町村で手続きを行います。
市区町村窓口には、以下のものをお持ちください。
・申請書(地域によって異なる)
・戸籍謄本など(申請者と故人の関係がわかるもの)
・故人の住民票の除票(死亡の記載があるもの)
・運転免許証など(申請者の身分が確認できるもの)
※遠方の場合は郵送での請求もできます。
※戸籍謄本・抄本は1通あたり450円、改製原戸籍・除籍は1通あたり750円の手数料がかかります。
財産を調べる
財産を相続するためには、財産の全容を把握する必要があります。モレやミスがあるとトラブルに発展する可能性があります。ご注意ください。
現金や土地等のプラスの財産だけでなく、借金や未払い金等のマイナスの財産もあります。
プラスとマイナス、両方の財産が存在する場合、プラスの財産だけを相続することはできません。マイナスの財産が多い場合、限定承認するか、相続を放棄することもできます。
プラスの財産
・現金
・預貯金
・生命保険金(受取人が指名されていないもの)
・死亡退職金(受取人が指名されていないもの)
・有価証券(株など)
・不動産(土地、家屋など)
・貴金属
マイナスの財産
・借金
・ローン
・未納の税金
・未払いの年会費
・買掛金(商売を営んでいる場合)
・敷金や預り金(土地を貸している場合)
相続の対象にならないもの
・配偶者に生前贈与した自宅(婚姻期間が20年以上)
・故人が住んでいた公営住宅
・生命保険金(受取人が指名されているもの)
・死亡退職金(受取人が指定されているもの)
・未支給年金
・香典
・葬儀費用
・墓地
不動産を調べる
土地や建物などの不動産について、自宅に保管されている登記識別情報(12桁の英数字が書かれた書類)や登記済権利証、固定資産税の納税通知書などから手がかりを見つけます。
正確な情報を得るには、各市町村窓口で名寄帳を閲覧します(ただし、知ることができるのはその市区町村内の不動産のみです)。財産評価や相続税の申告で必要になりますので、名寄帳を確認した際には併せて固定資産評価証明書の申請を行っておきましょう。
次に、名寄帳の情報を持って法務局に行き、登記事項証明書を申請します。
市区町村窓口や法務局には下記のものをお持ちください。
・申請書(固定資産評価証明申請書)
・運転免許証など(申請者の身分が確認できるもの)
※手数料が必要になる場合があります。
※運転免許証など(申請者の身分が確認できるもの)
預貯金を調べる
残されたカードや通帳などから金融機関の口座が故人にあることがわかった場合、残高を確認する必要があります。
まず、口座名義人が亡くなったことを金融機関に連絡します。これにより口座が凍結され、入出金などができなくなります。ただし、死亡届の提出や新聞の訃報欄などにより、自動的に口座が凍結されることもあります。
2019年の法改正によって、医療機関や葬儀社への支払いなどでまとまったお金が必要な場合、遺産分割前でも一定額の預貯金を引き出せるようになりました。
残高は金融機関に残高証明書を発行してもらうことで知ることができます。
財産を評価する
故人の財産をすべて把握・確認できたら、それらの価値を査定・評価します。
自動車や宝石などの動産は市場価格で判断することが多いのですが、不動産は複雑であるため、税理士や不動産鑑定士などの専門家に依頼するのが一般的です。
土地は路線価で評価するというのも1つの方法です。路線価は時価の8割ほどで設定されていますが、遺産分割協議の際には相続人同士の話し合いで評価額を決めます。
財産評価が完了したら、財産目録にまとめます。
意思表示をする
相続人は財産の相続について、意思表示をしなければなりません。相続形態には単純承認・限定承認・相続放棄があり、このうち1つを選びます。単純承認をする場合は特に手続きは必要ありませんが、限定承認や相続放棄を選択する場合は、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
単純承認:プラスの財産とマイナスの財産を全て相続する。
限定承認:プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を引き継ぐ。後から、プラスの財産以上のマイナス財産が見つかる可能性がある場合などに利用することが多い。
相続放棄:あらゆる財産を一切相続しない。代襲相続することもない。
限定承認や相続放棄する場合、家庭裁判所には以下のものをお持ちください。
・相続放棄申述書/相続の限定承認の申述書
・故人の住民票の除票(死亡の記載があるもの)
・故人の出生から死亡までの戸籍※改製原戸籍や戸籍・除籍謄本
・相続人の戸籍謄本
※申述人1人につき収入印紙800円分の手数料と、連絡用の郵便切手が必要となります。
※上記以外のものが必要となる場合があります。
相続人に判断する能力がないときは
未成年の相続人には「特別代理人」が、認知症等で判断能力が十分ではない相続人には「成年後見人」が必要です。それぞれ親権者や一定の親族などが家庭裁判所で手続きを行ってください。
遺産分割協議を行う
遺産を相続するとき、遺言書がない場合は相続人全員で話し合い、分配方法を決めます(遺産分割協議)。遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。協議に参加しない相続人がいたり、後に相続人が出てきたりすると、無効になります。
遺産分割協議がまとまると、その内容を遺産分割協議書として記載します。
分割方法は、主に現物分割・代償分割・換価分割の3種類です。
現物分割:「土地は妻に」「預金は長男・次男に」など、遺産をそのままの形で分ける方法です。シンプルでわかりやすい反面、遺産それぞれの価格に差があるため、公平に配分することが難しいです。
代償分割:「妻が土地を相続する代わりに、長男・次男に100万円支払う」など、一定の相続人が遺産を取得し、その他の相続人にお金を支払う方法です。公平ですが、まとまったお金を支払う能力があることが前提となります。
換価分割:「土地を売り、妻に200万円、長男・次男に100万円」など、遺産を売却して得たお金を分ける方法です。公平ですが、手数料や税金が発生したり、思いどおりの金額で売却できない可能性があります。
また、遺言や遺産分割協議の結果に関わらず、相続において優先される内容があります。以下を考慮せずに相続を行おうとするとトラブルの原因となるため注意が必要です。
故人の介護に関わっていた場合
相続人とならない親族で、無償で故人の看護や介護を行っていた場合、相続人に対して金銭請求権が認められています。
2019年7月から施行された改正民法によって認められた権利で、例えば亡き夫の親を介護していた女性などが該当します。
故人の事業を手伝っていた場合
故人の事業を手伝っていたり、あるいは扶養義務の範囲を超えて故人の生活を支援していた場合、寄与分となり、相続分が増額されます。
故人の生前に一定の財産を受け取っていた場合
故人から生前に財産の一部を受け取っていた場合、その分を考慮して減額する特別受益という制度があります。
2019年7月から施行された改正民法では、結婚20年以上の夫婦が自宅を生前贈与した場合、特別受益とはみなされなくなりました。
遺産の配分に明らかな偏りがある場合
故人は、遺言書をのこすことによって財産を自分の意思どおりにわけることができる一方で、兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺言に左右されずに相続することができる最低限の割合が法律で決められています(遺留分)。
遺留分が正当に確保されていない場合は、「遺留分侵害額請求権」を行使できます。これまでは現物のみでしたが、2019年7月1日以降は、金銭での支払いを請求できるようになりました(遺留分の金銭債権化)。
遺留分侵害額請求をする場合は弁護士に依頼することをおすすめします。
なお、遺留分は家庭裁判所に申し立てることで放棄することもできますが、放棄しても他の相続人の遺留分が増えるわけではありません。
遺産分割調停を行う
遺産分割協議で全員の合意が得られなかった場合、遺産分割調停を家庭裁判所(相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所)に申し立てます。1名の裁判官と民間から選出された2名の調停委員が、事情や希望を聴いたり。資料を精査した上で解決案を示すなどして、円満解決のために話し合いを行います。
合意を得られなかった場合は、自動的に遺産分割審判に移行し、裁判官が判断をします。
家庭裁判所には以下のものをお持ちください。
・遺産分割調停申立書
・当事者等目録
・遺産目録
・故人の出生から死亡までの戸籍 ※改正原戸籍や戸籍・除籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本・住民票
・遺産に関する証明書(不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書など)
※上記以外のものが必要となる場合があります。
※調停の申し立てには、被相続人1人につき収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手が必要になります。
不動産を相続した場合
不動産を相続した場合、相続登記(名義変更)する必要があります。不動産の所在地を管轄する法務局に「登記申請書」と必要書類を提出することで手続きを行いますが、非常に複雑であるため、司法書士に依頼するのが一般的です。
手続きが完了すれば、新しい所有者となる人に登記識別情報が発行されます。
換価分割などで不動産を売却する場合や、不動産を担保にお金を借りる場合にも、名義変更手続きを先に行う必要があります。
また、民法改正により、2020年4月1日から配偶者は、他の相続人が「故人とその配偶者が居住していた住宅」を相続した後も、新たな所有者に賃料などを支払わずに住めるようになりました。
預貯金・生命保険金を相続したら
預貯金を相続した場合、金融機関が指定する書類に相続人全員が署名・捺印することで口座の凍結が解除されます。
複数の銀行口座が相続の対象となっている場合は、先にすべての銀行に連絡して指定書式などを確認し、必要な署名や捺印、用意するべき書類など作業の全体像を把握しましょう。書類の作成や取得などを一度に終えることができれば、法定相続人や役所のもとを何度も訪ねなくて済みます。
生命保険金は、受取人が指定されている場合、相続の対象となりません。ただし、故人が受取人となっている場合は相続財産となりますので、保険会社の指定する書類に必要事項を記入し、手続きをを行う必要があります。
自動車を相続したら
自動車を相続した場合、まずは車検証を確認します。
※任意で加入している保険がある場合、名義変更・解約手続きを併せて行う必要があります。
※廃車にする場合もまずは相続の手続きが必要になります。
所有者が故人の場合
必要書類を用意の上、普通自動車の場合は陸運局、軽自動車の場合は軽自動車検査協会で名義変更または廃車の手続きを行います。
陸運局には以下のものをお持ちください。
・自動車検査証記入申請書
・車検証
・車庫証明書 ※車庫を変更しない場合は無効
・戸籍謄本など(死亡の事実および相続人全員が確認できるもの)
・相続人全員の印鑑証明・実印/相続人全員(新所有者を除く)の譲渡証明書(実印を押印したもの)※相続人全員が手続きを行う場合
・遺産分割協議書/印鑑証明/実印※遺産分割協議により、新所有者が手続きを行う場合
※上記以外のものが必要となる場合があります。
※普通自動車は手数料が必要です。
軽自動車検査協会には以下のものをお持ちください。
・自動車検査証記入申請書、軽自動車税申告書
・車検証
・新所有者の住民票または印鑑証明
・印鑑(朱肉を使用するもの)
※上記以外のものが必要となる場合があります。
所有者がリース会社などの場合
ローンが残っている場合は、残債の支払いについてリース会社などに相談します。残債が残っていた場合、マイナスの財産として相続の対象となります。ローンが残っていない場合は、リース会社が指定する方法で所有権解除の手続きを行います。
バイクや自転車を相続したら
原付やバイクを相続した場合、いったん廃車の手続きを行った上で名義変更をします。必要書類・ナンバープレート・身分証明書・印鑑などを持参の上、運輸支局または市町村窓口で手続きを行います。
自転車を相続した場合、防犯登録を相続人名義に変更する手続きが必要です。身分証明書と自転車を持って、防犯登録を扱っている自転車店へ行きましょう。
有価証券を相続したら
株式や債券などの有価証券を相続した場合、証券会社に連絡をします。その後、手続きに必要な書類が送られてきますので、必要事項を記入して返送します。
なお、相続人名義の口座を持っていない場合は、開設する必要があります。売却する場合は、名義変更手続きを先に行う必要があります。
国債の場合、国債を購入した金融機関に連絡をします。国債は、1万円から1万円単位で相続人の口座へ移管させることができますが、満期日に換金することもできます(調整額が差し引かれます)。
相続税を申告する
相続した財産の額が一定(基礎控除額)以上の場合、相続税を納付する必要があります。基礎控除額は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算できます。
法定相続人には相続放棄した人も含みます。養子の人数は、故人に実子がいる場合は1人、いない場合は2人まで認められています。
相続税は、相続開始を知った日から10か月以内に、所轄の税務署に申告の上、納税します。税務署から通知などが届くことはありませんので、忘れずに申告してください。
たとえ税額が0円であっても、配偶者控除などの軽減措置を受ける場合には相続税の申告を行わなければなりません。
相続税や控除に関しては、非常に複雑であるため、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。